山形地方裁判所 平成7年(わ)124号 判決 1995年12月18日
裁判所書記官
高橋恒明
本籍
山形県北村山郡大石田町大字田沢二二八〇番地の二
住居
同県同郡同町大字田沢二二八〇番地二
会社役員
高橋真弥
昭和三年六月一三日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官大場亮太郎、主任弁護人古澤茂堂、弁護人峯田典明出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金一五〇〇万円に処する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、山形県北村山郡大石田町大字田沢二二八〇番地の二に居住し、同所において、米穀等の販売業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て
第一 平成三年分の実際総所得金額が四八二九万六六二四円であったのにかかわらず、平成四年二月二八日、同県村山市楯岡笛田一丁目九番三四号所在の所轄村山税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が一二八一万七六三二円でこれに対する所得税額が二六一万六〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一九四八万四五〇〇円と右申告税額との差額一六八六万八五〇〇円を免れ
第二 同四年分の実際総所得金額が一億四六二九万六九三二円であったのにかかわらず、同五年三月一日、前記村山税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が四三一一万五六七六円でこれに対する所得税額が一七〇〇万二〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額六八五九万二五〇〇円と右申告税額との差額五一五九万〇五〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する各供述調書(四通)
一 被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書(八通)
一 高橋通博の検察官に対する各供述調書(七通)
一 小野葉子の検察官に対する供述調書
一 高橋通博の大蔵事務官に対する各質問てん末書(五通)
一 国税査察官作成の各写真撮影報告書
一 大蔵事務官作成の現金調査書、預金調査書、売掛金調査書、棚卸商品調査書、建物調査書、建物付属設備調査書、構築物調査書、機械装置調査書、工具器具備品調査書、車両運搬具調査書、電話加入権調査書、差入保証金調査書、事業主貸調査書、買掛金調査書、未払費用調査書、借入金調査書、事業主借調査書、未納租税公課調査書、元入金調査書、事業専従者控除調査書、申告営業所得調査書、犯則損(農業所得)調査書及び事業所得(犯則所得)調査書
判示第一の事実につき
一 大蔵事務官作成の「修正申告書謄本(平成三年分)」と題する書面及び「領収済通知書謄本(平成三年分)」と題する書面
一 押収にかかる平成三年分の所得税の確定申告書一枚(平成七年押第一九号の一)
判示第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の「修正申告書謄本(平成四年分)」と題する書面及び「領収済通知書謄本(平成四年分)」と題する書面
一 押収にかかる平成四年分の所得税の確定申告書一枚(平成七年押第一九号の二)
(法令の適用)
判示各所為 各所得税法二三八条
併合罪の加重 平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段、懲役刑については同法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重)、罰金刑については同法四八条一項・二項
宣告刑 懲役一年及び罰金一五〇〇万円
刑の執行猶予 懲役刑につき平成七年法律第九一号による改正前の刑法二五条一項一号
換刑処分 罰金刑につき同法一八条
(量刑の理由)
被告人は、平成四年九月一日にその営業を有限会社に改組するまでの同三年及び同四年八月末日ころは、「高橋真彌商店」名称の個人で特定米穀集荷販売業を営む者であったところ、納税を免れてこれを資産として備蓄するなどの目的のため、判示のとおり二納税年度にわたり、所得額において合計一億三八六六万〇二四八円を秘匿、税額において合計六八四五万九〇〇〇円をほ脱したもので、秘匿所得額、ほ脱税額は多額である上、ほ脱率は平成三年分は八六・五七パーセント、平成四年分は七五・二一パーセントと高い。そして、その手段、方法は、多額の収入を得ながら特定米穀等の取引が概ね現金取引であることを利用して売上を除外した虚偽の営業所得金額を長男高橋通博に予め指示し、その金額を基にこれに見合う資料によって納税額を算出させて、各確定申告書の作成を命じるなどして利益の圧縮を図ったものであり、また、ほ脱にかかる所得は、自己や家族名義の定期預金にして蓄え、通帳は地下倉庫に隠したり、結婚して他出した長女に預けたりして保管していたものであり、さらに、昭和六二年ころには税務調査を受けて、納税申告につき指導を受けた経過がありながら、重ねて本件各脱税を企図し、平成四年分については、申告所得金額が過少申告と見られることを指摘されるや、多少の金額を上乗せした修正申告をして脱税を糊塗しようとさえしたものであって、その犯行態様は計画的で悪質であり、その刑事責任は重いといわざるを得ない。
しかし、当然のこととはいえ、本件発覚後においては、右脱税税額に見合う各修正申告をなし、これに伴う付帯税を含め、これらを完納していること、食糧管理法違反等による古い罰金前科のほかにはとりたてるほどの前科もなく、犯行を反省していることなど、その余の諸事情をも総合斟酌して主文掲記のとおりの刑に処するとともに特にその懲役刑の執行を猶予するのが相当と認めるものである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 井野場明子)